大阪社保協FAX通信   1008号 2012.5.25                                        

517日、大阪市福祉局保険年金課へ大阪市国保よくする実行委員会とともに要望書と「国保料()滞納者に対する財産調査・差押えに関する私たちの考え方」を提出

 517日、大阪市国保をよくする実行委員会と大阪社保協は、大阪市に対して要望書とともに「財産調査・差押に関する考え方」を提出しました。交渉日程は7月初旬に予定されます。

 

 

大阪市長   橋下 徹  殿

2012年 5月17日

大阪市の国保をよくする実行委員会

代表 森野 一志

 

払える国保料に引き下げ、強権的な滞納処分の中止を求める要望書

 

  日頃より市民生活と福祉の向上にむけてのご尽力に敬意を表します。

さて、いま日本全国で高すぎる国保料の滞納と強権的な差押えによる生活困窮が深刻化しています。 大阪市でも収納対策チームによる財産調査と滞納処分件数が急増しています。また、大阪市は国保料引き下げのために一般会計から国保会計に繰り入れていた予算を大幅削減し、独自施策である3割軽減まで廃止する「改革素案」を打ち出しました。 

地方自治体には住民の福祉の増進を基本とする大事な責務がありますが、上記の2点は自治体として

の本来の責務を投げ捨てるものであり、200万円以下の所得の人が8割以上加入する最も底辺の セーフティネットである国民健康保険制度の改悪は撤回すべきだと考えます。

 また、2012年度の国保料について大阪市は4年連続で据え置きと発表していますが、負担能力を

超えた国保料になっていることは滞納世帯30%という状況をみれば明らかです。徴収や滞納処分の強

化ではなく、国保加入世帯全員の生活を脅かさない国保料にすることが急務です。国保制度の改善を求

め下記のことを要望します。

 

 

1 大阪市独自の3割減免の廃止や一般会計の繰り入れを削減する改革素案は撤回すること

2、払える国保料にすること。生活保護基準額を目安にするなど最低生活費に食い込まない減免制度を創設してください。

3、国保加入者の生活実態および、短期証の未交付・資格証明書(無保険)になっている加入世帯の生活状況を調査・把握して下さい。

4、すべての滞納者を悪質とみなす無差別的な財産調査を中止すること。財産調査は国税徴収法で「徴収職員は、滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは、その必要と認められる範囲内において・・」と厳格に規定されています。払う意志があっても払えない事情の聞き取りや納付相談など加入者の生活を脅かさない納税緩和制度(分納)を実施すること。延滞金を引き下げること。

5、医療費の一部負担金の減免制度で「所得の急激な減少」規定は国保法44条の目的と合致しないので削除すること。

 

国保料()滞納者に対する財産調査・差押えに関する私たちの考え方

大阪市国保をよくする実行委員会

実行委員長 森野一志

大阪社会保障推進協議会

    会長   井上賢二

1. もともと国民健康保険は被保険者の保険料()でまかなう制度設計にはなっていない

現在の国民健康保険は1961年に「国民皆保険制度」として当初より他の医療保険に加入できない高齢者、病人、無職者を抱え込んだ医療保険としてスタートしました。

2008年の後期高齢者医療制度スタートにより、75歳以上の高齢者が脱退したかわりに無職者と被用者の割合が増え、これらで加入世帯の7割を占める医療保険となっています。

当然、加入世帯所得は他の医療保険に比較して大幅に低く平成22年度国民健康保険実態調査報告によると1世帯当145万円でしかなく、全国平均でも7割、大阪平均でも8割が所得200万円未満です。

加入者の殆どが低所得者という条件のもとでスタートしたので、国保会計はもともと保険料負担でまかなう制度設計にはなっておらず、国庫負担を医療費の45%と定め、1970年代から1983年までは全体の約60%を国庫支出金が占めていました。

しかし、1984年から国庫負担率は低下し、現在は25%程度にしか過ぎません。減らされた国庫負担分を市町村一般会計独自繰入などでカバーしきれず、被保険者の保険料に肩代わりさせていることで、現在のような「負担できない高額保険料」となっています。

低所得世帯に高額の保険料が課せられることにより滞納が生まれることはある意味当然のことですが、こうした実態を無視して「払えるのに払わない悪質滞納者が多い」「払っている人がいるのに払わないのは公平性に欠ける」と言った一方的な理屈により、機械的な財産調査・差押えがされています。

2. 「いのちよりカネ」「給付より収納」の国保行政でいいのか

国民健康保険は法の第1条に規定されているとおり、社会保障制度であり、いのちやくらしが第一次的に保障されなければなりません。まかり間違っても保険料を支払ったがために生活できなくなったり、保険料が払えないからといって受診の機会を奪ったり財産を奪うことがあってはならないのです。

しかし、残念ながらこうした国保法の精神を「相互扶助」にすりかえ、「いのちよりカネ」「給付より収納」の国保行政となっていることは間違いありません。

今回、私たちは大阪府内各地でおきている国保滞納者に対する財産調査・差押えについて、私たちの考え方を提案します。

各市町村におかれましては、被保険者の大多数が低所得者であるということを踏まえ、被保険者のいのちやくらし、そして未来を奪うことのないよう、きめ細かな対応をされるよう強く求めるものです。

3. 国保行政にあたって留意すべきことについて

(1)収納担当窓口での対応について

@     大阪の国保料は同所得での比較においても全国1高額であること、さらに協会けんぽや共済と比較しても数倍高額であり、多くの被保険者にとって、支払い能力を超えていることを認識し、丁寧な納付相談に当たること。

(毎日新聞2008年度全国国民健康保険料調査により、所得200万円モデル世帯保険料は大阪府平均保険料が386697円で全国1であった。)

A収納担当者は、納付相談に当たって憲法255条(生存権)の趣旨を踏まえ、滞納者の生活実態について十分な把握と親身な相談をし、国保制度の枠を超え、借金などがある場合は弁護士につなぎ、さらに生活困難者に対しては生活保護受給などにつなぐこと。

 

日本国憲法第25

[1]すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 

a)常に滞納者と一体となった税務を運営していく心がけを持たなければならない。          納税者の主張に十分に耳を傾け、いやしくも、一方的であるという批判は受けることがないよう、細心の注意を払わなければならない。(国税庁「税務運営方針」197641日)

 

b)(滞納処分は)滞納者の生活、事業等に重大な影響を及ぼすものであることから、滞納処分に当たっては、法令に反することがあってはならない。滞納者の実情等を考慮し、応接中の言動や行動には十分注意すること。(国税庁徴収課長「滞納整理における留意事項について」200161日)

 

(2)「公平性」と納付資力の判断について

 

@     預貯金などの資産があることだけで、納付資力があると判断すべきではない。世帯の人数、各人の年齢、障害・高齢などの有無、家族の収入、ローン・負債、本人また家族の病気の有無などを総合的に勘案して、判断しなければならない。

A     当該世帯の「生活や営業が困難」になるような、支払いを強要してはならない。「生活が困難」になるとは、保険料を支払うと、生活保護基準以下の生活になる世帯のことである。

B     「営業が困難になる」とは、倒産や廃業の危険が伴うと言う状態のこと。従って、運転資金(〔受取手形+買掛金+在庫〕−〔支払手形+買掛金〕)、労働債権(給与、社会保険料など)、道具類・車両等の「減価償却分」のための預貯金を「納付資力」と判断してはならない。

C     国保は社会保障制度であることが法に定められている。そのため、保険料()の支払いで、「健康で文化的な生活」の維持を困難にする支払いを要求することはできない。支払いの強要は、憲法25条の趣旨に反することになる。「健康で文化的な生活の維持」のためには、当該世帯の生活保護基準の3ヵ月分の預貯金保有は、必要経費として認定し、当該世帯の同意がない場合は、その分については保険料支払いを強要してはならない。

 

国民健康保険法第一条

 この法律は、国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もつて社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする。

 

  D児童扶養手当、子ども手当などの差押禁止財産は、差押えをしないのは当然であると同時に、本来の目的に使用するものであり、納付資力として判断してはならない。

  E生命保険については、以下の場合には慎重に判断すること(国税徴収法基本通達67-6)

   a)近々保険事故の発生により多額の保険金請求権が発生することが予想される場合

b)被保険者が現実に特約に基づく入院給付金の給付を受けており、当該金員が療養生活費に充てられている場合

c)老齢又は既病歴を有する等の理由により、他の生命保険契約に新規に加入することが困難である場合

d)差押えに係る滞納税額と比較して解約返戻金の額が著しく少額である場合

F子どものための学資保険、葬儀のための蓄財(生命保険を含む)、将来の介護のための蓄財(生命保険を含む)などについては、世帯の事情を考慮し、それ以外に預貯金がない場合は、納付資力として判断してはならない。

  G「納付資力」を判断する場合、次の項目と金額の全部または一部を当該「世帯の『運転資金』」(必要経費)として考慮されるべきである。

a)教育費用(全国平均学習費総額/年=学校教育費+学校給食費+学校外活動費   平成20年度「子どもの学習費調査」文部科学省)

      ・公立幼稚園 23万円(私立幼稚園 541千円)

      ・公立小学校 308千円(私立小学校1393千円)

      ・公立中学校 48万円(私立中学校 1236千円)

      ・公立高校  516千円(私立高校 981千円)

    b)大学の費用(学費+生活費/年 4年生大学・昼間 全国平均「平成18年度学生生活調査」日本学生支援機構)

      ・国立 150万円      ・公立  140万円        ・私立 202万円

    c)医療費(1人当たり全国平均/年 「平成18年度国民医療費の概況について」厚生労働省)

      ・65才未満      154千円

      ・0才〜14才(再掲) 121千円

      ・15才〜44才(再掲) 95千円

      ・45才〜64才(再掲) 252千円

      ・65才以上      66万円

      ・70才以上(再掲)  743千円

      ・75才以上(再掲)  822千円

    d)介護利用料(=(費用額−給付額)÷サービス受給者数 1人当たり全国平均                        「平成20年度介護保険事業状況報告」厚生労働省)

       ・ 141千円/年

     e)葬儀費用

2010年日本消費者協会『第9回葬儀についてのアンケート調査』の結果によると、過去3年間に「身内に葬儀のあった人」が葬儀にかけた費用の総額は全国平均で1,998,861円。

 

  H滞納処分をする場合は、当該世帯主が悪質滞納者であることを条件とすること。

   悪質滞納者とは次のいずれもが当てはまる者のことを言う。

     (イ)納付相談に一向に応じようとしない者

     (ロ)納付相談で約束したことを履行しようとしない者

     (ハ)保険料を支払うのに十分な資力があること

     (ニ)滞納処分をしようとすると名義変更などをしようとする者。

                                                                            

(3)差押執行の前には必ず滞納者と面談し、詳しく事情を聞いたうえで@〜Hについて確認を行うことが必要である。

 

(4)財産調査をしたうえで滞納処分をする財産がないうえに、滞納保険料を支払えば生活困窮に陥ると判断できる場合は、地方税法15条の7及び国税徴収法153条にもとづき積極的に滞納処分の停止を行うべきである。

 

※この「考え方」は2011124日−5日に開催された「中央社保協全国国保改善運動交流集会」での北海道生活と健康を守る会連合会・札幌社保協「国保料への滞納処分とのたたかい−札幌市」での発言及びレジュメ資料を参考にさせていただきました。道生連および札幌社保協のみなさんの先進的なたたかいに敬意を称し、厚く御礼申し上げます。

 

過去4年間の国保料比較を表にしてみました。

 6月は税・国保料・介護保険料・後期高齢者医療保険料などの決定通知が届く「負担増の月」となります。2008年度〜2011年度の国保料比較表を作ってみました。

★寝屋川市は「毎日新聞ショック」で毎年値下げ

 寝屋川市が毎年のように下げているのが特徴的ですが、これは毎日新聞の国保料全国調査(2008年度分)で「全国一高い国保料」と報道されたことで、寝屋川市で大問題となったことによります。それでも高い保険料ですが、値下げをしたからといっても2008年度から単年度黒字に転化。2010年度は単年度7億円の黒字で累積赤字は7億円圧縮され124千万となっています。あと2年ほどで累積も黒字に転化すると予想されます。

所得200万円40代夫婦と未成年の子ども2人の4人家族国保料比較表

 

 

 

大阪社保協調査

 

2008年度

2009年度

2010年度

2011年度

大阪市

373,991

370,812

379,025

382,157

豊中市

409,823

406,455

406,455

406,455

池田市

273,151

388,913

416,160

452,022

豊能町

309,100

314,000

314,000

314,000

能勢町

368,200

392,600

392,600

392,600

箕面市

300,080

336,849

362,060

364,398

高槻市

271,390

274,182

288,350

295,170

島本町

314,180

337,780

326,010

350,650

茨木市

339,040

339,130

351,600

359,960

吹田市

302,930

280,670

300,560

319,590

摂津市

356,224

356,224

356,224

356,224

守口市

482,010

484,175

454,160

469,220

門真市

424,750

418,610

417,610

416,640

大東市

393,600

399,400

415,600

415,600

四条畷市

407,630

385,120

384,160

387,470

寝屋川市

503,900

454,960

447,000

426,900

枚方市

328,300

329,600

336,100

344,800

交野市

344,500

344,400

343,200

350,400

東大阪市

441,405

461,540

408,735

419,450

八尾市

360,680

360,687

360,680

360,680

柏原市

398,758

408,337

405,114

401,367

松原市

414,606

404,472

412,326

428,111

羽曳野市

396,010

414,780

418,070

418,060

藤井寺市

434,700

449,400

439,500

431,800

大阪狭山市

412,948

413,677

428,785

426,280

富田林市

421,390

433,870

433,870

431,870

太子町

342,150

 

389,110

402,350

河南町

372,250

376,660

400,550

398,080

千早赤阪村

計算不可

 

398,960

403,050

河内長野市

361,130

375,080

413,710

409,020

堺市

434,106

444,824

433,032

445,432

和泉市

382,000

394,960

425,950

425,950

高石市

356,220

375,759

445,250

454,357

泉大津市

423,900

427,510

431,400

431,000

忠岡町

465,500

465,500

461,900

450,900

岸和田市

371,700

371,600

386,600

395,200

貝塚市

423,410

423,410

423,415

424,410

泉佐野市

422,000

436,200

453,500

453,500

田尻町

375,860

 

375,980

384,380

熊取町

332,060

 

 

393,620

泉南市

370,200

370,200

370,200

370,200

阪南市

396,260

420,460

432,150

432,150

岬町

374,940

352,660

372,160

441,280

平均

380,642

389,627

395,520

400,855

 

医療分+後期高齢者医療支援金分+介護分